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福島地方裁判所 平成10年(行ウ)3号 判決

主文

一  被告が原告に対して平成一〇年一月一六日付けでした所属作成に係る公費支出調査資料三五四件の公文書非開示決定の内、別紙文書目録1ないし4、7、8、10ないし15を開示しないとした部分を取り消す。

二  被告が原告に対して平成一〇年一月一六日付けでした部局作成に係る公費支出調査資料一一件(監査委員事務局、人事委員会事務局、地方労働委員会事務局作成に係る資料を除いた分)の公文書部分開示決定の内、別紙文書目録5、6、9を開示しないとした部分を取り消す。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

一  本件は、福島県の住民である原告が、福島県情報公開条例(平成二年福島県条例第四一号。以下「本件条例」という。)に基づき、福島県公費支出調査検討委員会が作成した平成九年一二月二日付け「公費支出調査結果及び改善策について」と題する報告書の基礎となった各部局(知事部局、企業局、教育庁、監査委員事務局、人事委員会事務局、地方労働委員会事務局)や各所属(本庁の各課、出先の事務所)作成の調査資料の公開を請求したところ、本件条例の実施機関である被告福島県知事がこれを本件条例所定の非開示事由に該当する情報が記載されているとして一部を非開示とする旨の決定をしたので、その一部の取消しを求めたものである。

二  福島県における情報公開に関する条例の内容

福島県においては、平成二年一〇月一六日、福島県条例第四一号により本件条例が制定されており(平成六年一〇月一四日条例第七一号により一部改正)、その内容は、本件に関連する部分については、以下のとおりである。(乙一)

1  (目的)

この条例は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、公文書の開示及び情報提供の推進に関し必要な事項を定めることにより、県民の県政に対する理解と信頼を深め、もって開かれた県政を一層推進することを目的とする。

(一条)

2  (解釈及び運用)

実施機関は、県民の公文書の開示を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、及び運用するものとする。この場合において、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。

(三条)

3  (請求権者)

次に掲げるものは、実施機関に対して公文書の開示を請求することができる。

(1) 県の区域内に住所を有する者

(2) 以下略 (五条)

4  (開示しないことができる公文書)

実施機関は、開示の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは、当該公文書を開示しないことができる。

(1) (法令秘情報)略

(2) 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され又は識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

ア 法令等の規定により何人も閲覧することができる情報

イ 公表することを目的として実施機関が作成し、又は取得した情報

ウ 法令等の規定による許可、免許、届出等に際して実施機関が作成し、又は取得した情報であって、開示することが公益上必要であると認められるもの

(3) 法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、開示することにより当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他の正当な利益を害すると認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

ア 事業活動によって生じ、又は生じるおそれがある危害から人の生命、身体又は健康を保護するために、開示することが必要であると認められる情報

イ 違法又は著しく不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある支障から人の財産又は生活を保護するために、開示することが必要であると認められる情報

ウ ア又はイに掲げる情報に準ずる情報であって、開示することが公益上必要であると認められるもの

(4) (犯罪捜査等情報)

(5) (国、地方公共団体等関係情報)

(6) (意思形成過程情報)略

(7) 県の機関が行う検査、監査、争訟、交渉、渉外、入札、試験、徴税、人事その他の事務事業に関する情報であって、開示することにより、当該事務事業もしくは将来の同種の事務事業の実施の目的が損なわれ、又はこれらの事務事業の公正若しくは円滑な実施に著しい支障が生ずるおそれのあるもの

(8) (合議制機関等関係情報)略 (六条)

三  当事者間に争いのない事実

1  当事者

原告は、福島県内に住所を有する者で、本件条例五条一号により、公文書の開示を請求することができる。

被告は、福島県知事として、本件条例二条一項により、本件条例に基づき公文書の開示等を実施する機関である。

2  公費支出調査の経緯

(一) 福島県公費支出調査検討委員会の設置

福島県は、旅費等の公費支出についての住民監査請求や一連のマスコミ報道を契機に、県民の県職員に対する信頼が揺るぎつつあるとして、平成九年四月二一日、本庁の各課、出先事務所における公費支出の実態を把握するために、副知事を委員長、出納長を副委員長とし、各部局長、各種委員会事務局長、教育長を委員とする公費支出調査検討委員会を設置し、公費支出に関する全庁調査に着手した。

公費支出調査検討委員会は、平成六年度から平成八年度までの三か年度分について、県職員が執行する旅費、賃金、報償費、食糧費、使用料及び貸借料等に係る県予算執行の実態について把握することとした。

(二) 調査の方法

(1) 旅費については、職員本人が受領印を押して受け取るという支給手続の性格上、他の経費と異なり、第三者の領収書が存在しないことから、全ての旅行命令について出張した職員本人が記憶、個人的な記録等に基づいて、旅行命令どおり出張したか否かの自己点検を実施した後、関係書類(出勤簿、旅行復命書、旅行命令簿等)との整合性、同行者のいる出張については当該職員間の自己点検の整合性を確認し、必要に応じて、所属長(課長、出先事務所長)等と職員とのヒアリングを実施した。

(2) 旅費以外の節(賃金、報償費、食糧費、使用料及び賃借料、その他)については、月次資料(支払予算明細表、支出負担行為明細表等)と関係書類(賃金台帳、出役領収書等)との突き合わせ、所属長(課長、出先事務所長)等と関係者(庶務担当課長、係長、前任者等)とのヒアリングを実施した。

(三) 調査結果

公費支出調査検討委員会は、(二)のような調査方法により作成された膨大な調査資料に基づいて、平成九年一二月二日付け「公費支出調査結果及び改善策について」と題する報告書(以下「本件報告書」という。)を作成して公表した。本件報告書において、平成六年度から平成八年度の三か年度間における実態と異なる不適正な支出は、二九億六四五五万四〇〇〇円(その内、旅費が九六・七パーセントを占める。)であり、執行残の現金等一億二九二九万三〇〇〇円を速やかに県に返還し、公務遂行上必要な経費のために充当されたものの内、領収書等により確認された一億五六二七万三〇〇〇円や、旅費制度等の不備により適切な予算措置が講じられていなかったことに対する補填措置として充当された三億三五六五万九〇〇〇円を除いた二三億四三三二万九〇〇〇円を県に返還すべきであると報告した。

本件報告書は、右(二)のような調査方法により、各所属(本庁の各課、出先の事務所)毎に、旅費については旅行した本人による自己点検等の結果を、旅費以外については月次資料と関係資料との突き合わせの結果を取りまとめて、各所属(本庁の各課、出先の事務所)において作成した公費支出調査資料と、これを各部局(知事部局、企業局、教育庁、監査委員事務局、人事委員会事務局、地方労働委員会事務局)毎に集計して、各部局において作成した公費支出調査資料とを基礎資料として、作成されたものである。

(四) 福島県公費支出調査検証委員会による検証

福島県は、平成九年九月一九日、公費支出調査検討委員会による公費支出調査結果についての検証と必要な改善策の提言を行うために、民間の有識者からなる福島県公費支出調査検証委員会を設置した。

公費支出調査検証委員会は、各部局(知事部局、企業局、教育庁、監査委員事務局、人事委員会事務局、地方労働委員会事務局)や各所属長(課長、出先事務所長)が作成した公費支出調査資料を閲覧し、点検したほか、外部確認調査や実地検証を行った上、同年一一月二六日付け「公費支出に関する検証結果と改善策について」と題する報告書を提出して、公費支出調査検討委員会による公費支出調査結果が信頼性の高いものであると報告した。

3  本件公文書部分開示決定

原告は、被告に対し、平成九年一二月八日、本件条例に基づき、各部局(知事部局、企業局、教育庁、監査委員事務局、人事委員会事務局、地方労働委員会事務局)や各所属(本庁の各課、出先の事務所)が作成した公費支出調査資料の開示を請求した。

これに対し、被告は、平成一〇年一月一六日、所属作成に係る公費支出調査資料については、本件条例六条二号及び三号所定の非公開文書に該当するとして、調査対象とされた三五四所属分全てを開示せず、部局作成に係る公費支出調査資料については、監査委員事務局、人事委員会事務局、地方労働委員会事務局作成に係る三部局分のみは全部開示し、右以外の知事部局、企業局、教育庁作成に係る一一部局分の資料一一件は、一部本件条例六条二号所定の非公開文書に該当するとして、所属毎の不適正執行額が明らかになる部分を除いて開示した。(以下「本件処分」という。)

原告は、これを不服として、同年四月八日、本件処分による非開示部分の開示を求めて本件訴訟を提起した。

4  請求の減縮

原告は、第八回口頭弁論期日において、請求を前記第一請求欄のとおり、本件処分の内、別紙文書目録記載の文書(以下「本件公文書」という。)を非開示とした部分の取消しのみに減縮した。

5  本件公文書の内容

3のとおり、当初本件訴訟の対象となっていた文書は、①三五四の各所属(本庁の各課、出先の事務所)毎に作成した、平成六年度から平成八年度まで各年度毎の、節単位の予算執行、即ち旅費、賃金、報償費、食糧費、使用料及び賃借料、その他についての予算執行の実態に係る公費支出調査資料の全て、②監査委員事務局、人事委員会事務局、地方労働委員会事務局を除く一一の各部局毎に、各所属作成の右公費支出調査資料を集計して作成した資料の内所属毎の不適正執行額が明らかになる部分であった。

原告は、以上の文書の内、旅費、賃金、報償費、使用料及び貸借料に関する公費支出調査資料については、訴えを取り下げた。その結果、本件訴訟の対象として残った本件公文書は、①食糧費の支出に関する資料②その他の節の支出に関する資料③他の経費への流用の実態に関する資料である。具体的には、以下のとおりである。

(一) 食糧費の支出に関する資料

(1) 各所属(本庁の各課、出先の事務所)作成資料

いずれも、本庁の各課・出先の事務所単位で、実態と異なる食糧費の支出について集計したものである。

① 食糧費支出に関する実態調査メモ(総括表)(別紙1)

実態と異なる支出について、支出件数、支出額及び支出状況(実態と異なる支出が(1)職員間の飲食等に充当、(2)その他の支出に分類され、それぞれについて支出件数及び支出額が記載され、さらに、その他の支出については具体的使途及び金額が記載されている。)が記載された文書であり、左の②ないし④の各文書等に基づいて作成された食糧費支出の関する実態調査の総括表である。

② 食糧費支出に関する実態調査メモ(支出額・件数等表)(別紙2)

左の④の文書を基礎データとして、実態と異なる支出について、配分予算の目毎に、支出の形態((1)職員間の飲食等に充当、(2)その他)別に件数、支出額及び財源内訳(国庫、その他、県費)を集計して記載した文書である。

③ 食糧費支出に関する実態調査メモ(形態別状況表)(別紙3)

左の④の文書を基礎データとして、実態と異なる支出について、執行形態(A会合等・対国等、B会合等・対民間、C会議の弁当茶菓、D接客用茶菓子代、Eその他)毎に、件数、支出額、支出状況((1)職員間の飲食等に充当、(2)その他の支出に分類され、それぞれについて支出件数及び支出額が記載されている。)を集計して記載した文書である。

④ 食糧費支出に関する実態調査メモ(執行一覧表)(別紙4)

調査対象年度に執行した食糧費全てについて、個々の案件毎に調書番号、配分予算の目、支出負担行為年月日、出納機関決裁日、執行形態(A会合等・対国等、B会合等・対民間、C会議の弁当茶菓、D接客用茶菓子代、Eその他)、執行日(納入日)、支出の目的・概要、支出先(屋号も記入)、支出額を記載した上、調査実施時に在籍した事務担当者(本庁各課においては総務担当課長補佐及び総務担当係長、出先事務所においては総務担当次長、総務課長及び総務担当係長)が、月次資料(支払予算明細表、支出負担行為明細表)を調査したほか、調査対象年度に在籍していた自らと同じ立場の職員や実際に懇談会に出席した職員等から聞き取り調査を行い、自己に不利益な事実についても自主的な申告を求め、実態と異なる支出であると判明したものについて、その支出額と具体的な相違点を記載した文書である。

(2) 各部局(知事部局、企業局、教育庁、監査委員事務局、人事委員会事務局、地方労働委員会事務局)作成資料

いずれも、右各部局単位で、実態と異なる食糧費の支出について集計したものである。

① 食糧費支出に関する実態調査メモ(部局計)(別紙5)

右(1)②の文書の所属計を各部局(知事部局、企業局、教育庁、監査委員事務局、人事委員会事務局、地方労働委員会事務局)毎に集計したものである。

なお、非開示とされた部分は、「うち実態と異なる支出の内訳」欄記載部分のみである。

② 食糧費支出に関する実態調査メモ(形態別部局計)(別紙6)

右(1)③の文書の所属計を各部局(知事部局、企業局、教育庁、監査委員事務局、人事委員会事務局、地方労働委員会事務局)毎に集計したものである。

なお、非開示とされた部分は、「実態と異なる支出」欄記載部分のみである。

(二) その他の節の支出に関する資料

(1) 各所属(本庁の各課、出先の事務所)作成資料

いずれも、本庁の各課・出先の事務所単位で、実態と異なる食糧費の支出について集計したものである。

① その他の節に関する実態調査メモ(別紙7)

実態と異なる支出(支出件数及び支出額、諸経費へ流用した支出件数及び支出額、その他の支出件数及び支出額、その他の支出の具体的使途及び金額)並びに節本来の目的外、または調書記載と異なる内容で事務的経費に充当されたものの状況を記載した文書であり、左の②文書に基づいて作成されたその他の節の支出に関する実態調査の総括表である。

② その他の節の支出に関する実態調査メモ(実態と異なる支出個別表)(別紙8)

実態と異なる支出について、具体的な案件毎の調書番号、予算科目、負担行為年月日、調書上の内容(支出内容・目的、業者名及び支出額)、実態と異なる支出の内訳(支出の形態別に(1)諸経費へ流用、(2)その他に分類され、その分類毎に支出額、財源内訳及び実施と調書上の内訳との相違点が記載されている。)を記載した文書である。月次資料(支払予算明細表、支出負担行為明細表等)の調査のみでは実態の把握が困難であったため、事務担当者が調査対象年度に在籍していた自らと同じ立場の職員等からの聞き取り調査を通じ、自己に不利益な事実についても自主的な申告を求め、実態と異なる支出であると判明したものについて、右のとおり記載した。

(2) 各部局(知事部局、企業局、教育庁、監査委員事務局、人事委員会事務局、地方労働委員会事務局)作成資料

その他の節の支出に関する実態調査メモ(部局計)(別紙9)

右(1)②の文書の所属計を各部局(知事部局、企業局、教育庁、監査委員事務局、人事委員会事務局、地方労働委員会事務局)毎に集計したものである。

(三) 他の経費への流用の実態に関する資料(各所属《本庁の各課、出先の事務所》作成資料)

いずれも、本庁の各課・出先の事務所単位で、他の経費への流用の実態についてまとめたものである。

(1) 諸経費流用分に関する総括メモ(別紙10)

これは、課・所毎に集計した旅費、賃金、報償費及びその他の節から諸経費に流用された金額の使途(①事務的経費に充当、②慶弔的経費に流用、③国等との折衝経費に充当、④会議等負担金に充当、⑤各種団体との懇談会等に充当、⑥職員間の飲食等に充当、⑦職員へ旅費として支給、⑧その他の費用に充当)毎に支出件数、支出額及び支出額の節別内訳を記載した文書である。各所属の所属長や事務担当者は、残されていたメモ等を手掛りに調査対象年度に在籍していた自らと同じ立場の職員等からの聞き取り調査を行い、特定した支出を使途毎に分類して作成したものである。

(2) 諸経費流用分に関する使途内訳表(①事務的経費に充当)(別紙11)

諸経費に流用された支出のうち、事務的経費のために充当され、かつ、領収証等により確認されたものとしてその具体的な使途内訳、金額及び証明できるもの(証明に用いた資料の名称)を記載した文書である。

(3) 諸経費流用分に関する使途内訳表(②慶弔的経費に流用)(別紙12)

諸経費に流用された支出のうち、慶弔的経費のために充当され、かつ、領収証等により確認されたものとしてその具体的な使途内訳、金額及び証明できるもの(証明に用いた資料の名称)を記載した文書である。

(4) 諸経費流用分に関する使途内訳表(③国等との折衝経費に充当)(別紙13)

諸経費に流用された支出のうち、国等との折衝経費のために充当され、かつ、領収証等により確認されたものとしてその具体的な使途内訳、金額及び証明できるもの(証明に用いた資料の名称)を記載した文書である。

(5) 諸経費流用分に関する使途内訳表(④会議等負担金に充当)(別紙14)

諸経費に流用された支出のうち、会議等負担金に充当され、かつ、領収証等により確認されたものとしてその具体的な使途内訳、金額及び証明できるもの(証明に用いた資料の名称)を記載した文書である。

(6) 所属作成資料・諸経費流用分に関する使途内訳表(⑤各種団体との懇談会等に充当)(別紙15)

諸経費に流用された支出のうち、各種団体との懇談会費等に充当され、かつ、領収証等により確認されたものとしてその具体的な使途内訳、金額及び証明できるもの(証明に用いた資料の名称)を記載した文書である。

四  争点及びこれに関する当事者の主張

1  本件公文書の非開示事由につき、本件条例六条七号に該当することを追加主張することが許されるか。(別紙文書目録9の文書について、本件条例六条三号に該当することを追加主張することが許されるか。)

(被告の主張)

取消訴訟においては、行政庁は当該処分の効力を維持するための一切の法律上及び事実上の根拠を主張することが許される。

したがって、本件訴訟において、被告が右非開示ないし部分開示を理由あらしめる事由を追加的に主張することは許される。

(原告の主張)

文書非開示決定あるいは文書部分開示決定の際には、二号あるいは三号の理由だけを掲げ、七号は理由として掲げていなかった。訴訟の段階になって新たな非開示理由を掲げることは許されない。

情報公開の制度は、「県民の県政に対する理解と信頼を深め、もって開かれた県政を一層推進することを目的とする。」(本件条例一条)ものであり、「実施機関は、県民の公文書の開示を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、及び運用するものとする。」(本件条例三条)とされている。この趣旨から、請求のあった公文書は原則として開示されることとなっており、公文書を開示しない旨の決定(部分非開示を含む。)をしたときは、決定書に非開示の理由を記載しなければならないとされている(本件条例九条三項)。右本件条例からすると、非開示の理由を後から追加することなど予想していない。

2  本件公文書の本件条例六条二号該当性について

(被告の主張)

(一) 本件公文書には、所属(本庁の各課、出先の事務所)毎の公費の不適正執行の内容、件数及び金額等が記載されており、不適正な支出のあった課、出先事務所の長、予算執行の事務担当者(本庁各課においては総務担当課長補佐及び総務担当係長、出先事務所においては総務担当次長、総務課長及び総務担当係長を指す。以下、単に「事務担当者」という。)は、当時の職員録と組み合せることにより容易に識別される。

公費支出調査は、公費支出の実態を把握し社会情勢に適合した公費支出の諸制度を確立することを目的として実施されたものであり、本件公文書はプライバシーの保護についても万全を期することの了解のもとに、所属長等と関係者からの聴き取りに基づき自主調査を行った結果を記載したもので、旅行命令書等の公務遂行上の単なる事実を記載したものと比してプライバシー保護の要請が格段に大きい性質の情報である。

また、本件各文書を開示すれば、当該課・所の長、事務担当者等が不適正支出に直接関与したものと推測されたり、各課、出先事務所毎の不適正執行の件数、支出額等の比較により当該職員の関与の度合いについて憶測が生じ、個人攻撃の対象とされ、その背景に自らの権限と責任ではいかんともし難かった制度上の問題があったこと等は考慮されず、必要以上の過酷な責任追及を受けるおそれがあり、さらに、当該職員の家族も居住地域、職場、学校等で中傷、非難、いじめを受けるなど不測の事態を招くおそれがある。その結果として、職員個人及び職員の家族の正常な生活(私生活の平穏)が脅かされる蓋然性が高い。

以上のとおり、本件公文書に記載された情報は、公務員の職務執行に際して記載された情報であっても公務員の私的側面に関する情報も含まれること、特に非公開を前提に調査した結果得られた情報であること、開示されると当該職員個人に対する責任追及の道具として利用されるおそれがあること、当該個人の正常な生活(私生活の平穏)が脅かされる結果となる蓋然性が高いことから、本件条例六条二号本文の「個人に関する情報」に該当し、同号ただし書イに該当しない。

(二) 別紙文書目録4の文書には、懇談等の相手方としての県職員以外の個人の職名、氏名が記載されている部分がある。

当該個人は、氏名が公表されることを前提に懇談等に応じたものではなく、また、不適正支出にかかわる懇談等の場合には、開示することにより、不適正支出に全く関与していないにもかかわらず、これに関与したと疑われ、あるいは疑われる度に説明を行わなければならなくなるなど、開示しなければ全く生じなかった個人的不利益を被ることが予想される。

したがって、右文書は、本件条例六条二号本文の「個人に関する情報」に該当し、同号ただし書イに該当しない。

(三) 別紙文書目録11ないし15の各文書の「使途内容」欄には、事務的経費、慶弔的経費、折衝経費、会議等負担金、懇談会等の支払相手先として法人名や県職員以外の個人の職名・氏名、団体名が記載されている。

右部分を開示すると、当該個人は県職員ではなく、しかも、県の不適正支出に全く関与していないにもかかわらず、これに関与したと疑われ、あるいは疑われる度に説明を行わなければならなくなるなど、開示しなければ全く生じなかった個人的不利益を被ることが予想される。

よって、右文書は、本件条例六条二号本文の「個人に関する情報」に該当し、同号ただし書イに該当しない。

(原告の主張)

(一) 本件の公費支出調査は、カラ出張等の違法な公金の支出があったかなかったかの調査であって、職員個人の私生活にかかわる事項についての調査ではないから、個々の職員のプライバシーの保護とは無関係である。公金の不正支出を行ったことを自白したことが当該職員にとって、不利益であるからといって、本件の公費支出調査が私的側面を帯びるということはあり得ない。しかも、県職員が内密に個人的に点検したものではなく、委員会の指示に基づき、県職員全体が県民の信頼の回復のために一斉に点検したものであるから、私的情報でないことは明らかである。恥ずべき情報であったとしても、公費を不正に支出したことについての情報であり、より公開されるべきであるという方向で意味を増す要素になりこそすれ、私的情報に近づける要素とはなり得ない。

また、本件の公費支出調査は既に終了し、職員は不適正な支出と認定された金額を福島県に返還し、決着を付けている。しかも、全ての課、出先事務所が何十年にわたって不適正支出に手を染めていたのであるから、関与した所属長、事務担当者といえば、全ての所属長、事務担当者がそれに該当することになる。にもかかわらず、本件公文書が公開されたことを機に、職員録、その他の資料との突き合わせを行い、その中から特定の所属長、事務担当者の名前を暴き出して、その私生活を脅かすような行動をとる偏執者がいるとはおよそ考えがたい。もし、そのような者が現われたとするなら、それは別途対応すればよいだけのことである。

以上のとおり、本件公文書が公費支出の適正という極めて公的性格の強い事項についての調査に係る文書であり、事の性格上、職員個人のプライバシーが入り込む余地のない以上、プライバシーの保護を目的とする本件条例六条二号本文に該当しないことは明らかである。

そして、本件公文書は、福島県公費支出調査検証委員会及び福島県議会議員に開示されているのであるから、本件条例六条二号ただし書イの「公表することを目的として実施機関が作成し、または取得して情報」に該当する。

(二) 被告は、別紙文書目録4、11ないし15の各文書につき、これらの文書を開示すると、県の不適正支出と関係がないにもかかわらず、名前を使われた個人が関与を疑われ、疑われる度に説明を行わなければならないなど不利益を被ることが予想されるので、非開示にすべきであると主張する。

しかし、福島県の職員において、しかるべきお詫びと説明を行えば、名前を使われた個人に不利益が及ぶことはない。

3  別紙文書目録4、7ないし9、11ないし15の各文書の本件条例六条三号該当性について

(被告の主張)

(一) 別紙文書目録4、7ないし9の各文書には、公費の不適正支出の支払相手先としての業者名が記載されている部分がある。

右各文書を開示すると、当該業者が県の不適正支出に関与したと疑われ、あるいは疑われる度に説明を行わなければならないなど、信用、名誉、社会的評価等の正当な利益を害すると認められる。かかる信用、名誉、社会的評価等の侵害を完全に防ぐためには、右各文書を非開示とする以外に方法はない。

したがって、右各文書は、本件条例六条三号の事業情報に該当し、同号ただし書のいずれにも該当しない。

(二) 別紙文書目録11ないし15の各文書には、「使途内容」の欄に、例えば、企業誘致に伴う折衝経費の相手方として法人名、各種団体等との懇談経費の内容として団体名や法人名、あるいは、事務経費の支払先としての法人名等が記載されている。

これらの情報は、当該法人等にとっては取引先や取引内容を示すもので営業上の秘密と考えられ、また、懇談会については、開催当時、相手方は公表されることを前提として出席したものとは考えられない。しかるに、当該法人等相手方のあずかり知らぬところで一方的にこれを開示した場合、開示された情報が当該法人等の営業上の秘密であれば当該法人等の営業上の利益を害することとなる。

また、企画調整等事務情報については、同事務が事業の遂行のために必要な事項についての関係者との内密な情報の収集を目的として行われたものであり、右情報の公開によってその関係者や相手方が了知される可能性がある。また、支出の相手方については、内容の公表によってその当否が詮索される状況を生じさせることとなり適当でない。

したがって、右各文書は、本件条例六条三号の事業情報に該当し、同号ただし書のいずれにも該当しない。

(原告の主張)

(一) 文書に業者名が記載されているとしても、業者の名前を勝手に使った側、つまり福島県の職員において、しかるべきお詫びと説明を行えば、業者があれこれ説明しなければならない事態を回避できる。

(二) 法人や事業者が県等の地方自治体との間で折衝や懇談をすることはよくあることであり、何ら秘すべきものではない。また、折衝や懇談をしたこと及び経費として公費が使われたこと自体が判明したとしても、その内容まで右文書に記載されていることは考えられない。

したがって、別紙文書目録4、7ないし9、11ないし15の各文書は、本件条例六条三号には該当せず、本件決定は違法である。

4  本件公文書の本件条例六条七号該当性について

(被告の主張)

公費支出調査検討委員会は、公費支出の実態の調査と社会情勢に適合した公費支出にかかる諸制度の確立を目的として、全職員に協力を求めて自己点検を実施し、非公開による自主調査の方法により公費支出調査を行った。

右調査の対象や内容等をふまえた場合、プライバシーに配慮することを前提に職員個人の自己点検や当時の担当者等からの聞き取り調査を主体とした自主調査という方法を取らざるを得なかった。

仮に、こうした調査方法を取らなければ、不適正な支出の件数及び金額の正確な把握は困難を極め、調査自体が成り立たなくなることは容易に推察されるところであり、結果として、社会情勢に適合した公費支出にかかる諸制度の確立という本件調査の実施目的が損なわれることになる。

右の事情等から、右委員会による公費支出の実態調査は、県の自主的、内部的調査によって非公開で行われたものであるが、県の機関が行う検査、監査、争訟、交渉、渉外、入札、試験、徴税、人事等事務事業の執行過程の中で、非公開で内密に行われるものは多数ある。

非公開で行われる調査等の事務事業を実施する際に、県が「非公開の調査だから包み隠さず真実を知らせてほしい。」と言って職員に協力を求めても、非公開を前提に公費支出調査に協力した職員の個人情報等が後に開示され当該職員や家族が厳しい非難を受けた前例があるとすれば、将来の職員が真実を包み隠さず申告することは到底期待できず、将来の事務事業の実施目的が損なわれ、あるいは同事業の公正若しくは円滑な実施に著しい支障を生じることは容易に予想できる。

したがって、本件公文書は、本件条例六条七号の事業執行過程情報に該当する。

(原告の主張)

今回の公費不正支出に関する調査は、県の機関が行うその他の事務事業に該当するところ、内密に行われたものではなく、県民の注目を浴びながら県職員全体の自浄能力を期待されて行われたものである。そして、不正支出の原因を究明し、今後不正支出が行われないようにその対策をも視野に入れて行われたものである。

そして、今回の調査はすでに終了しているのであり、問題は将来同種事務事業に著しい支障が生ずるかどうかだけであり、将来、同種の事務事業が実施されるかどうかは全く未知数であるところ、このような不確定な将来のことを理由に公文書の開示に応じないとすることは許されない。仮に実施されるとしても、公費の支出に関する調査に応じない県職員や関係者が存在することなど考えられない。

県職員の意識改革、公費に対する県民の意識向上が徹底されていけば、容易に克服できることであり、著しい支障が生じることは考えられない。

したがって、本件公文書は本件条例六条七号には該当しない。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

本件訴訟における審判の対象は、本件処分の処分理由の適否ではなく、本件処分の実体上及び手続上の違法性一般であるから、その後条例上類型化された処分理由を追加して主張したとしても、そのことによっては、処分の同一性は損なわれず、審判の対象が異なるに至るものではない。

また、本件条例九条三項が、非公開決定書に理由を記載すべきものとしているのは、非公開の理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当とを担保してその恣意を抑制するとともに、非公開の理由を公開請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることを目的としていると解すべきである。そして、そのような目的は非公開決定の通知にその理由を付記することをもってひとまず実現される。本件条例の規定をみても、右の理由付記の定めが、右の趣旨を超えて、ひとたび決定書に理由を付記した以上、実施機関が当該理由以外の理由を非公開決定の取消訴訟において主張することを許さないものとする趣旨をも含むと解すべき根拠はないとみるのが相当である。

したがって、被告が、本件公文書の非開示事由につき、本件条例六条七号に該当することを追加主張することは許されるし、また、別紙文書目録9の文書について、本件条例六条三号に該当することを追加主張することも許される。

二  争点2(本件条例六条二号該当性)について

1  本件公文書は、所属長(課長、出先事務所長)や事務担当者との関係で、本件条例六条二号に該当するとの被告の主張について

(一) 本件公文書の内容は、前記第二、三5のとおりであり、これには、各所属(本庁の各課、出先の事務所)毎の平成六年度から平成八年度の食糧費等の公費の不適正執行の内容、件数、金額等が記載されており、平成六年度から平成八年度の職員録と組み合せることにより、不適正支出のあった各所属(本庁の各課、出先の事務所)の長や事務担当者の氏名は容易に特定されるものと考えられる。

また、所属(本庁の各課、出先の事務所)名を除外して本件公文書を開示した場合でも、年間の食糧費支出総額等別に存在する関係資料の内容が記載されているために、本件条例に基づき開示請求することによって取得できる当該関係資料と突き合わせることによって、各所属(本庁の各課、出先の事務所)名を特定することが可能であり、やはり、長や事務担当者の氏名は特定され得るものと考えられる。

(二) しかし、以上のことは、本件公文書の公開により、公費の支出という、公務そのものを遂行した者や責任を負うべき者が特定されたということにすぎず、それ以上に当該公務員の個人としての行動や生活に関わる意味合いを含むものではない。したがって、その限りにおいてはプライバシーが問題となる余地はない。そして、前記第二、二のとおり、本件条例は第一条において、「県民の県政に対する理解と信頼を深め、もって開かれた県政を一層推進することを目的とする。」と定めているところであり、このような本件条例の目的に鑑みて、地方公共団体の職員の公務の遂行に関する情報は可能な限り具体的に開示される必要があるというべきところ、各部局(知事部局、企業局、教育庁、監査委員事務局、人事委員会事務局、地方労働委員会事務局)単位での公費の不適正執行の内容、件数、金額等が記載された文書については、前記第二、三3のとおり、開示しながら、各所属(本庁の各課、出先の事務所)単位での情報を開示しないというのは、本件条例の趣旨、目的に反する。

もっとも、公務員が役職や個人名を知られることにより、その生活の平穏を不当に侵害される場合も考えられないわけではなく、そのような場合には、当該情報はプライバシーにわたるものとして個人情報としての色彩を帯びることになるが、このような特別の事情の存在は、非開示事由に該当するための要件として、具体的に主張立証されなければならない。

この点について、乙四四、四五(新聞記事)によれば、北海道や東京都において、不適正な支出があった所属(本庁の各課、出先の事務所)の長や事務担当者等の氏名が明らかになることにより、それらの者が必要以上に個人攻撃の対象とされ、その家族も、居住地域、職場、学校等でいじめを受けるなどの事態を招いた例があったことが認められるが、そもそも、事柄の性格上、責任ある地位にある長や事務担当者が一定の社会的非難を受けることはやむを得ないところであるのみならず、公費支出調査検討委員会の検討結果の公表以後の福島県民の冷静な対応も斟酌すると、被告の主張するところは、いまだ抽象的かつ不確定な憶測の域を出るものではない、そのような事態が招来するおそれが相当程度現実的に予測できるとまで認めるに足りる証拠はない。

また、本件公文書の作成方法は、前記第二、三5のとおりであり、別紙文書目録4、8、10ないし15の各文書は、調査実施時に在籍した長や事務担当者が、調査対象年度に在籍していた自らと同じ立場の職員等から聞き取り調査を行い、自己に不利益な事実についても自主的な申告を求めて作成したものであり、その余の文書は、これらの文書や他の文書の内容を集計したり、取りまとめることによって作成したものである。被告は、聞き取り調査にあたって、プライバシーの保護について万全を期することの了解のもとに行った旨主張するが、そもそも聞き取りの内容自体、プライバシーとはいえないことは前記のとおりであるのみならず、旅費についての調査が前記第二、三2(二)(1)のとおり全職員の自主申告によったことと比較すると、対象となる者が限定されており、開示されないとの期待を保護すべき必要性はさほど大きいとはいえない。

以上検討したところによれば、本件公文書は、所属長(課長、出先事務所長)や事務担当者との関係で、本件条例六条二号に該当すると認めることはできない。

(三) ところで、弁論の全趣旨(平成一〇年一一月三〇日付け被告準備書面九頁)によれば、福島県においては、「県職員の職務遂行に関する個人情報であって、公表しても社会通念上個人のプライバシーを侵害するおそれがないと認められる情報」が、本件条例六条二号ただし書イ「公表することを目的として実施機関が作成し、又は取得した情報」に該当するとの解釈運用を行っていることが認められ、仮に、本件公文書が形式的には本件条例六条二号に該当するものとし、右のような解釈運用基準を採ったとしても、右(二)で検討したところによれば、本件公文書は、本件条例二号ただし書イに該当すると解するのが相当である。

2  別紙文書目録4の文書は、懇談等の相手方との関係で、本件条例六条二号に該当するとの被告の主張について

(一) 別紙文書目録4の文書の内容は、前記第二、三5(一)(1)④のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、右文書の懇談等の相手方としての県職員以外の個人の職名、氏名が記載されている部分があること、懇談等に参加していない者の氏名を冒用してなされた(あるいは氏名使用の許諾を受けてなされた)虚偽の記載と実際に懇談等に参加した者の氏名が書かれた真実の記載が混然として盛り込まれていることが認められる。

(二) 食糧費の支出が行われる懇談等は、公費を用いてなされるものであるから、原則として私的な懇談等ということはあり得ず、出席者は懇談等に参加したこと自体は公開されることを受容して行動しているといわざる得ず、特段の主張立証のない限り、私的領域の事柄ということはできない。

乙二(一九頁)によれば、福島県においても、平成九年八月以降に開催分の食糧費支出に関しては、県側出席者の職、氏名のみならず、相手側についても事前了解を得て開示するものと、本件条例の運用を改めたことが認められる。

したがって、懇談等への参加が当該相手方にとってプライバシーに関わることを窺わせる特段の主張立証がない本件においては、懇談等に真実参加した相手方の職名、氏名が本件条例六条二号に該当すると認めることはできない。

(三) 前記第二、三2のとおり、別紙文書目録4の文書は、福島県において、公費の支出に関わる県職員全体に対する疑惑という重大で深刻な社会問題の発生を契機として、不適正な公費支出の実態を明らかにする目的で、平成六年度から平成八年度までの三か年度分に及ぶ公費支出の全庁調査という膨大な作業を行った過程で作成されたもので、その分量は極めて多量であり食糧費に係る不適正支出の実態を明らかにする多量の情報が盛り込まれている。

他方で、右文書には、懇談等に参加していない者の氏名を冒用してなされた虚偽の記載も含まれており、そのような虚偽情報が記載されるに至った経過は、不正な会計処理によりいわゆる裏金を捻出するためにこのようなことが行われたというのであるから、不正行為に被冒用者が加担したかのような外観を呈する文書が公開されることによって、被冒用者の名誉が毀損される可能性が全く危惧されないわけではない。

しかしながら、このような危惧はいまだ抽象的かつ不確定な憶測の域を出るものではなく、そのような蓋然性を具体的に示す証拠はないのみならず、仮にそのような蓋然性が具体的に予測される場合には、福島県において、被冒用者が不正な会計処理に加担したものでないことを外部に明らかにするなどの何らかの対策を講じることによってこれを防止することができないわけではない。

したがって、極めて多量の食糧費に係る不適正支出の実態を明らかにする情報の中に、被冒用者に係る情報が混在しており、被冒用者に係る情報とそれ以外の部分とを分離して特定することは極めて困難であることが推認される、別紙物件目録4の文書においては、被冒用者の職名、氏名が、文書全体を非開示するに足るだけの名誉毀損の可能性の存在があり、これを予防すべき途がないとして本件条例六条二号に該当すると認めることはできない。

3  別紙文書目録11ないし15の各文書は、支払相手方等との関係で、本件条例六条二号に該当するとの被告の主張について

(一) 別紙文書目録11ないし15の各文書の内容は、前記第二、三5(三)(2)ないし(6)のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、右各文書には、事務的経費、慶弔的経費、折衝経費、会議等負担金、懇談会等の支払相手先として法人名や県職員以外の個人の職名・氏名、団体名が記載されていることが認められる。

(二) 被告は、右部分を開示すると、当該個人は県職員ではなく、しかも、県の不適正支出に全く関与していないにもかかわらず、これに関与したと疑われ、あるいは疑われる度に説明を行わなければならなくなるなど、開示しなければ全く生じなかった個人的不利益を被ることが予想されると主張する。

しかしながら、前記第二、三5(三)(2)ないし(6)のとおり、別紙文書目録11ないし15の各文書に記載されているのは、いずれも、それぞれの費目のために充当され、かつ領収証等により支払の確認されたものであるから、支払相手先としては福島県との正当な取引により支払われた金員であり、客観的にも取引自体としては通常のものであるから、文書の性格を正しく説明しさえすれば、支払相手先に不利益が生じるということは考え難く、情報の開示を妨げるべき理由とはならない。

したがって、別紙文書日録11ないし15の各文書は、支払相手方等との関係で、本件条例六条二号に該当するとは認められない。

三  争点3(本件条例六条三号該当性)について

1  別紙文書目録4、7ないし9の各文書は、支払相手先としての業者との関係で、本件条例六条三号に該当するとの被告の主張について

(一) 別紙文書目録4、7ないし9の各文書の内容は、前記第二、三5(一)(1)④、(二)(1)①、②、(2)のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、右各文書には、公費の不適正支出の支払先としての業者名が記載されている部分のあることが認められる。

(二) 被告は、右各文書を開示すると、当該業者が県の不適正支出に関与したと疑われ、あるいは疑われる度に説明を行わなければならないなど、信用、名誉、社会的評価等の正当な利益を害すると主張する。

しかしながら、右のような事態が生じるか否かは、いまだ抽象的かつ不確定な憶測の域を出るものではなく、そのような蓋然性を具体的に示す証拠は提出されていないのみならず、仮にそのような蓋然性が具体的に予測される場合には、福島県において、当該業者が不正な会計処理に加担したものでないことを外部に明らかにするなどの何らかの対策を講じることによってこれを防止することもできないわけではない。

したがって、別紙文書目録4、7ないし9の各文書は、支払相手先としての業者との関係で、本件条例六条三号に該当するとは認められない。

2  別紙文書目録11ないし15の各文書は、本件条例六条三号に該当するとの被告の主張について

被告は、別紙文書目録11ないし15の各文書の「使途内容」欄には、例えば、「企業誘致に伴う折衝経費の相手方として法人名」「各種団体等との懇談経費の内容として団体名や法人名」「事務経費の支払先としての法人名」等が記載されており、これらの情報は、当該法人等にとっては取引先や取引内容を示すもので企業上の秘密であるなどと主張する。

しかしながら、被告の主張は右のとおりの抽象的概括的な指摘に止まり、右各文書には、公費の不適正支出の実態を明らかにする極めて多量の情報が盛り込まれていることに鑑みると、右情報を開示することにより、当該法人等の「競争上の地位その他の正当な利益を害すると認められる」か否かについての判断を可能とする程度の具体的な主張立証がないものといわざるを得ない。

したがって、別紙文書目録11ないし15の各文書が本件条例六条三号に該当するとは認められない。

四  争点4(本件条例六条七号該当性)について

被告は、本件公文書を開示すれば、非公開を前提に調査を協力した職員等に迷惑を及ぼし、その信頼を裏切ることとなり、将来非公開で内密に行う事業の実施に著しい支障を生じると主張する。

なるほど、前記第二、三2(二)のとおり、旅費についての調査は、県庁の全職員がすべての旅行命令について自己点検し、自主申告したもので、その個別の原資料が開示されるならば、非公開を前提に調査に協力した全職員の期待に背き、将来の非公開を前提に協力を得る必要がある事業の実施に何らかの弊害をもたらすおそれが否定できなくはない。しかしながら、本件公文書の作成方法は、前記第二、三5のとおりであり、別紙文書目録4、8、10ないし15の各文書は、調査実施時に在籍した長や事務担当者が、調査対象年度に在籍していた自らと同じ立場の職員等から聞き取り調査を行い、自己に不利益な事実についても自主的な申告を求めて作成したものであり、その余の文書は、これらの文書や他の文書の内容を集計したり、取りまとめることによって作成したものである。このように、本件公文書については、関与した者の範囲がそれなりに限定されており、これらの関与者は、その職制における立場上、本件公文書が開示されたからといって、今後の事業に非協力な態度をとるなどということは考え難い。

また、本件公文書を開示することによって、職員や家族が厳しい非難を受けることがあれば、将来の事務事業の実施に著しい支障を生じるとも主張するが、そのような事態が招来するおそれが相当程度現実的に予測できるというに足りる証拠がないことは、前記第三、二1で検討したとおりである。

したがって、本件公文書が本件条例六条七号に該当すると認めることはできない。

五  結論

よって、被告が本件公文書を非公開とした本件処分は、違法であるから、これを取り消すこととし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 生島弘康 裁判官 高橋光雄 裁判官 久保孝二)

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